NO.288 12月5日【金】=ヒトは冬眠できるのか②=

おはようございます。
昨日からの続きです。なかなか冬眠しない、あるいはできないクマによる被害が日本中で報告されていますが、人間と同じほ乳類で恒温動物のクマは冬眠するのに、なぜ人間は冬眠しないのか、できないのかというお話しです。昨日の結論として、冬眠は体温制御システムの停止によって体温が低下しているのではなく、その制御範囲を能動的に低温側にシフトさせて引き起こされる低代謝状態であり、安全かつ効率的なエネルギー節約機構であることがわかりました。それでは、人間も条件が整えば冬眠することは可能なのでしょうか。これが新たに湧いてきた疑問です。

2030年に人類を火星に送るプロジェクトを進める米国のNASAは本気で人工冬眠の研究を進めていると言います。月は地球から38万キロという、いわば至近距離にある衛星ですが、火星となるとその公転軌道のなかで地球に最も近づくときでも5700万キロの彼方にある、遠い惑星なのです。最も効率よく航行したとしても、往復するには650日はかかると言われています。その間、宇宙船の狭い船内で、しかも無重力状態で過ごすとなると、精神的にも肉体的にも非常に過酷な日々を過ごさねばならず、相当な訓練と精神力が求められると言います。そこで期待されているのが、人工冬眠なのです。長期間の宇宙旅行を冬眠しながら過ごすことが出来れば、乗組員の精神的負担が軽減されるだけでなく、生理機能が極端に低下し、意識も低下した状態なので、食糧や水、酸素の供給など、必要な物資や居住空間も最小限に抑えることが可能になると期待されているのです。

人工冬眠により代謝を落とすことは、全身の細胞分裂の速度を下げることになります。宇宙空間には私たちの遺伝子に危害を与える宇宙線が地上の100倍の強さで飛び交っていますが、ダメージを受けるのは細胞分裂中の遺伝子なので、冬眠により細胞分裂のスピードが落ちれば、ダメージも受けにくくなるのではと考えられています。そして、冬眠中の動物は、ほとんど動かずに冬を越すにもかかわらず、筋肉の委縮や骨量の低下がみられないことが知られています。筋委縮も骨量低下も、じつは積極的な代謝過程によるものなので、全身の代謝を下げてしまえば、そのスピードを大きく遅らせることができるというわけです。

人工冬眠技術は、宇宙旅行だけでなく、日々の医療への応用も期待されていると言います。患者さんの代謝を冬眠技術によって極端に抑制することが出来れば、例えば心肺停止状態の患者を病院まで緊急搬送する時間を稼ぐこともできるでしょうし、またガンなどの病巣の進行を遅らせることで、手術までの時間を稼ぐことや、SF小説のように現代の医療技術では助からない患者を、冬眠させて医療技術が進歩した未来に送ることもできるかも知れません。

クマやキツネザルにできるのなら、きっと人間にもできるはずと研究者は真面目に考えています。最も進化した霊長類である人間は、その進化の過程で冬眠する能力をいつの間にか退化させたのかも知れません。であれば、もう一度その能力をよびさますこともできるかも知れませんし、自力でできなくてもそれを可能にする補助装置や機械を作り出すことは、おそらくもう時間の問題なのかも知れません。人工冬眠は空想でなく、まさに現実になりつつあるのです。

今日も一日頑張って行きましょう。
よろしくお願いします。

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