おはようございます。
私たちが敬愛する野本亀久雄九州大学名誉教授が、1980年代初頭に初めて提唱された生体防御論ですが、その後この理論が従来の免疫学の考え方を大きく広げる概念として世界に広まり、今では生体防御医学という形で、予防医学の中心になっています。そもそも生体防御とは、私たちの体において、外から侵入する微生物やアレルゲンなどの異物や、死んだ細胞などの自己老廃物や腫瘍細胞を処理し、健康を維持する仕組みをいいます。
リンパ球による免疫のしくみは、生体防御の中心ですが、皮膚や粘膜を構成する上皮細胞や食細胞、常在細菌叢なども、生体防御のしくみの大切な構成要素として考えれています。この連続的なバリアーとしての防御システムが生体防御の要であり、従来の免疫学を大きく広げて、より実践的に病原体やさまざまな外敵から体を守るしくみとしてとらえ直した概念であります。現在の医療技術の進歩や新しい医薬品の開発などの現場では、まさに生体防御医学がその中心的な考え方として利用応用されています。多くの大学、特に医科系の大学や研究機関では、必ず生体防御という4文字を配した研究室が存在するほど、ポピュラーになっています。まさにこの半世紀にわたり医学・医療の発展をけん引してきた学問と言えます。
しかし、野本教授の生体防御論は、医学の単なる概念理論では終わっていません。先生は、人の体のしくみとしての生体防御論を展開されてきましたが、これは人という個体だけでなく、人が集合して形成する社会にも、そしてさらには人とすべての生き物を合わせた生物界全般にも通じる理論として、さらにさらに自然や地球と言った環境や宇宙にも広がる理論として、この生体防御論を展開し、いまもその研究に勤しんでおられるといいます。先生はかつてこうお話されました。空を流れる雲も、野原を飛ぶトンボやチョウチョも、そして道端に転がる小石も、そのすべてが命を育む場として、大切な存在なのだと。私たちを取り巻く地球の自然や環境も、すべてを含めて生き物として把握することが必要だといいます。それを生活環境科学という新しい学問として発表されています。
まさに雲をつかむような話として、私たち素人には難解な部分ではありますが、しかし生体防御の考えが人間を超えて社会に適用できることは、よくわかります。先週もお話しましたが、現在の医療システムや病院は、まさに私たちの命を守る最後の砦であり、生体防御のしくみから言えば、おもにリンパ球が受け持つ抗体やサイトカインなどが活躍する最後の防衛ラインです。そしてこの防衛ラインは、命の危険が迫っている事態であり、労力もさることながら、費用も掛かる最先端の装備が用意されている場所です。現在の医療はこの最終防衛ラインにあまりにも依存し、また負担がかかりすぎているために、社会問題になっていると先生は分析しています。これが国民医療費50兆円の原因であり、社会保障制度の破綻を招いているということです。
野本教授はこれをいち早く予見し、最終防衛ラインに行く前に、もっと前線で連続的なバリアーを構築すべきであるといいます。体の生体防御でいえば、まず皮膚や粘膜で外敵を防ぐ第一防衛ライン、そしてマクロファージや好中球がパトロールする第二防衛ラインです。これをしっかりと構築することで、病院に行く前に自分でできること、病気になる前に病気になりにくい体をつくること、そこにもっと知恵と力を注ぐべきであると教えておられます。では具体的にどうするか、このお話来週も続けたいと思います。
今日も一日頑張って行きましょう。
よろしくお願いします。

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