NO.183 5月1日【木】=発酵食品の科学=

おはようございます。
日本人は味噌、醤油、漬物、納豆、鰹節、清酒など、多くの発酵食品を発明し、これを食生活のなかで活用した歴史と伝統を持っています。こうした日本食の伝統が、私たちの味覚をさらに豊かにし、世界でも有数の食文化を作り上げてきたのだと思います。その中心ともいえる発酵食品は、実は微生物をたくみに使いこなし、古くから麹などを専門に扱う稼業も存在し、まさに職人技として受け継がれてきた歴史があります。

では、発酵とは具体的にどのような技術なのでしょうか。そこに関わる微生物の研究が進むほどに、これを経験的に食生活に取り入れてきた先人たちの英知に改めて驚くとともに、添加物付けになった現代人の食生活を、改めて見直す大切な機会を与えてくれる存在でもあると考えます。

まず、食品・食材を発酵させる意義について考えてみましょう。発酵食品の始まりは、保存食でした。納豆も漬物も、微生物の作用により加工して製造された保存食でした。古の人々は飢えと闘うために、確保した食料をいかに保存するか必死で考えたのだろうと思います。その試行錯誤の繰り返しから、微生物の繁殖した食料には食中毒を起こすような毒性のあるものと、そうでないものを見分ける術を身につけていったと考えられます。これが腐敗と発酵の原点です。

腐敗は、さまざまな菌が繁殖することで起こりますが、中には病原性のあるものや毒素を出すものがあり、これが有害の元になりますが、こうした菌は中性から塩基性の環境を好むものがほとんどで、酸性の環境では生育ができないと言われています。一方で、発酵の主役ともいえる代表的な微生物には乳酸菌の仲間が多く、その名のとおり繁殖することで乳酸を多量に作り出しますので、その環境は酸性になります。つまりpH を下げる方に働くことになります。pHが下がり酸性になると、健康被害をもたらすような微生物はほとんど生育できなくなります。

乳酸菌が、漬物やヨーグルトの製造に欠かせないことは多くの人が知る事実ですが、チーズ、清酒、赤ワインなどの製造にも乳酸菌が重要な役割を果たしています。このように発酵は食品のpHを低下させることで、腐敗を招く雑菌の繁殖を抑えて、保存性を高める効果があります。つまり保存食というのが発酵食品の始まりであったと考えられます。

しかし、発酵にはもう一つ大きな意義があります。それは保存性の改善のみならず、味や風味の改良です。発酵により乳酸や酢酸などの有機酸がつくられpHが下がると、まず酸味が強くなることはご想像のとおりです。これは食品に含まれる糖質(炭水化物)が分解されて起こる化学変化ですが、肉や魚といった食品には大切な栄養素であるタンパク質も豊富に含まれています。このタンパク質が発酵のもう一つの大きな意義に大きく関与しています。この続きはまた明日お話しましょう。

今日も一日頑張ってゆきましょう。
よろしくお願いします。

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