NO.164 3月27日【木】=久山町研究=

おはようございます。

福岡県糟屋郡久山町は、人口約9,000人の小さな町ですが、医学研究の分野では知る人ぞ知る大変に有名な町とされています。久山町を有名にしたのは、久山町研究という60年以上に長きにわたって行われている疫学的研究(コホート研究)で、他には例を見ないとても有益な研究成果をたくさんあげている研究の取り組みです。1961年に九州大学医学部の勝木司馬之助教授が、日本人の脳卒中死亡率が他の国に比べて群を抜いて高いことに注目し、その原因を解き明かそうと研究を始めたと言います。研究対象として久山町が選ばれた大きな理由は、久山町住民の年齢・職業分布が全国平均とほぼ同じであり、偏りのほとんどない平均的な日本人集団であったことと言われています。

当時脳卒中は日本人の死因の第一位を占めており、中でも脳出血による死亡率が脳梗塞の12.4倍と欧米に比べて異常に高かったため、世界の研究者からは誤診ではないかとの声も上がっていたと言います。そこでその実態解明に取り組んだのが九州大学の久山町研究だったのです。そして久山町研究の結果、脳出血による死亡率は脳梗塞のわずか1.1倍であったことがわかり、当時の死亡診断書には病型診断の誤りが数多く含まれていたことが証明されたと言います。

以来、久山町研究は現在まで継続して続けられており、九州大学の公衆衛生学分野のみならず、精神科神経科、心療内科、循環器内科、呼吸器科、眼科、整形外科、麻酔科、泌尿器科、予防歯科などから、さまざまな研究者があつまり、生活習慣病全体に関わる研究テーマについて継続的に疫学的調査研究を進められいると言います。もちろん野本先生が率いていた生体防御医学研究所も脳機能制御学という分野で参加しており、これまでの多くの成果を上げてこられました。2002年には東京大学医科学研究所や理化学研究所などとの共同研究も始まり、また2015年には国家プロジェクトとして立ち上がった「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」における中核的な役割を久山町研究が担っているそうです。

久山町研究は、久山町に暮らす住民の人々と医療の第一線を支えている地元の開業医師たちとの信頼関係の上に成り立っている疫学研究と言えます。この信頼関係をベースに久山町住民の健康づくりを支援しつつ、蓄積され続けている膨大なデータを成果として社会に情報発信し、すべての人々の生活習慣病の予防に貢献している大変貴重で、優れた取り組みであると思います。これは私たちのサステナの生みの親であるラルフ・スターリ氏が当時米国オハイオ州で実施していた、オハイオサーベイとその趣旨・目的においてとても共通するものがあります。スターリ氏は、1960年頃から約25年にわたり延べ8000人以上の地域住民の参加を得て、オハイオサーベイと呼ばれる疫学調査を進めましたが、そこでも高血圧やコレステロール、心臓疾患などざまざまな生活習慣病に関わる多くのデータを集積し、その後の臨床研究に発展させてきました。

残念ながら現在はオハイオサーベイは継続されていませんが、久山町研究にもある通り、生活習慣病の実態解明と治療法の研究には、長期に亘って多数の患者を追跡調査する疫学的研究手法が欠かせません。私たちが実現しようとするサステナビレッジ構想には、久山町研究のように、住民との連携によるオハイオサーベイのような疫学研究を継続的に進めて行くプロジェクトもぜひ盛り込みたいと考えています。

今日も一日頑張って行きましょう。

よろしくお願いします。詳細を表示

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