おはようございます。
生体防御という理論は、私たちが敬愛する野本亀久雄名誉教授が世界ではじめて提唱した考え方です。私たちのカラダを守る免疫のしくみを従来の免疫学からさらに進めて、トータルで私たちの生命活動や日々の生活を、病原菌やさまざまな有毒物質などから守るための防御システムとして体系化した考え方ですが、その最前線は鼻やのど、そして胃腸などの粘膜組織がその舞台として語られることが多いと思います。しかし、本当の最前線は実は私たちのカラダ全体を覆っている皮膚組織であり、皮膚のバリアこそが生体防御の最前線であると言えます。あまりにも日常的な存在なので、ありがたみを感じにくいのですが、皮膚は人体最大にして最強の臓器です。さらに、皮膚は、体の内外を分けるだけでなく、「あつい・つめたい」「いたい、かゆい」といった感覚を伝える「感覚器」でもあります。
そして皮膚の病気として多くの方を悩ませているのが「アトピー性皮膚炎」です。アトピー性皮膚炎は、皮膚に症状が現れるアレルギー疾患ですが、その患者数はここ数十年で倍増しており、アトピー性皮膚炎もまた同様の傾向にあります。今回は、京都大学大学院医学研究科教授の椛島健治先生の著書「人体最強の臓器皮膚のふしぎ」(講談社)から一部抜粋させて頂き、アトピー性皮膚炎について考えます。花粉症と同様に1960年代以降、日本でもアトピー性皮膚炎の患者数は急増し、厚生労働省の定点調査では2014年時点で約45万人との推定値がありますが、実際ははるかに多く、『アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2008』によると、4ヵ月から6歳では12%前後、20〜30歳代で9%前後の頻度で認めることが明らかとなっており、実際のアトピー性皮膚炎患者数は数百万人にいたると考えられています。世界中では約2億3千万人いると推定されています。
アトピー性皮膚炎は典型的なアレルギー疾患で、外来抗原(アレルゲン)が体内に入ることによって発症します。主なアレルゲンは、花粉やホコリ、動物の毛などのタンパク質抗原です。皮膚バリアが堅牢(けんろう)であれば、こうしたアレルゲンの侵入をある程度防ぐことができるので、発症は予防できます。逆に、皮膚のバリア機能が低下すると、大量のアレルゲンの侵入を許してしまうため、アレルギー症状に陥りやすくなります。
この皮膚のバリア機能の低下にかかわる重大な科学的な発見が最近になって発表されました。2006年、英国ダンディー大学のマクリーンらのグループが、フィラグリン遺伝子の変異が、アトピー性皮膚炎、あるいはアトピー性皮膚炎と喘息の合併症に関与することを示したのです。フィラグリンとは、皮膚の表面にある角層細胞を構成するタンパク質で、ケラチン繊維を束ねて角層のバリアを強固にする機能を果たしています。またフィラグリンはアミノ酸まで分解されると、水分を保持する天然保湿因子となり、皮膚の乾燥を防ぐ役割を担っていることも分かっています。このフィラグリン遺伝子に変異があると、フィラグリンが不足し、皮膚のバリアが低下してアトピー性皮膚炎の原因になることを突き止めたのです。
これまで、アトピー性皮膚炎は、まず免疫応答の異常があることが前提としてあり、そこにバリア機能の低下という条件が加わると発症するという考え方が支配的でした。ところが、原因遺伝子の発見によって、実際にはまずバリア機能の低下があることが前提で、そこにアレルギーを誘発する免疫応答の異常が起きたときに発症する可能性が高いことがわかったのです。これまでのアトピー性皮膚炎の発症機序の考え方を覆す大発見でした。
その後、日本においても、約20〜30%のアトピー性皮膚炎患者にフィラグリン遺伝子の変異が存在することが明らかとなりました。ただ、興味深いことに、フィラグリン遺伝子の変異がなくても、中程度から重症のほぼすべてのアトピー性皮膚炎患者では、フィラグリン・タンパク質が減少していました。その原因のひとつとして、アレルギー疾患にかかわるヘルパーT細胞(Th2細胞)から分泌されるサイトカイン(IL-4やIL-13)が皮膚の細胞の正常な分化を阻害するため、フィラグリンの合成が十分に進まないことが考えられます。つまり遺伝的な素因がない人でも、遺伝的素因がある人と同じように「フィラグリン不足」になっているのです。ここからは、まさに免疫応答における異常反応の話になりますが、この続きは明日にしましょう。
今日も一日サステナ飲んで頑張りましょう。
よろしくお願いします。

コメント