NO.217 7月8日【火】=ヒトはなぜ眠るのか?=

おはようございます。

先々週に引き続き、またNHKの「チコちゃんに叱られる」のような問いですが、私たち人間のみならず、すべての動物に眠りの時間があります。なぜ眠るのか、睡眠にはどのような必要性があるのか、普段はなんの疑問を持つことなくほぼ毎日睡眠を生活のサイクルの中で、食事と同じように繰り返していますが、私たちはなぜ眠るのでしょうか。これが植物であったり、あるいは細菌やウイルスなどであれば、おそらく睡眠という行為は観察できませんから、やはり発達した神経節としての脳を持つ動物に特有な行為であることは、容易に想像がつきます。

なぜ眠るのか、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武医師の著書である、「SF脳とリアル脳」(講談社)の中で、そのあたりが詳しく検証されていますので、少しご紹介したいと思います。この本では、眠らない脳が果たして可能なのか、遺伝子工学の発達した未来において、眠る必要のない無眠人が誕生すると言ったSF小説のテーマを、科学的に検証するという仕立てになっていますが、結論を言えば、どんなに医学や科学が進歩しても、やはり睡眠を止めることは出来ないと言います。睡眠を止めることは、すなわち生命の放棄であると、櫻井医師は結論づけています。

確かに、私たちの生活のなかで、一日のほぼ3分の1を占める睡眠ですが、一生で考えれば途方もなく大きな時間を睡眠に費やしていることになります。この時間を他の活動に充てることが出来れば、どんなに効率的になるか、もっと人生を楽しむことが出来ると考える人も多いでしょう。しかし、私たちの身体は確実に睡眠を要求しますし、何日も睡眠を断つことはすなわち健康を害する事態を招きます。

私たちの脳は、眠っている間もさまざまな作業を行っていると言います。そして日々の脳の活動を整理し、記憶として固定化する作業が行われているそうです。したがってこうした作業ができないと、いずれ脳機能に変調が起こり、全身の機能にも異常が引き起こされることになります。2023年に中国で行われたマウスの実験は非常に過酷なもので、眠ると溺れてしまう環境におかれた結果、完全に睡眠を奪われたマウスは4日でサイトカインストームという免疫系の変調をきたし、死に至ったというものでした。

睡眠は、脳神経であるシナプスの再構築と記憶の固定化作業として不可欠と考えられていますが、ではその作業を、睡眠という方法に代えて別の方法や仕組みで代用することは出来ないのでしょうか。例えば、脳神経の機能をさらに発達させて、覚醒中も同時進行的にシナプスの再構築作業や記憶の固定化作業を進行させる仕組みを持てば、睡眠をとらなくてもよくなるのではという仮説です。そういった革新的な能力を持った遺伝子を進化によって獲得した動物が現れるというのがSF脳の世界ですが、これはやはり数十億年に及ぶ生物の進化の過程においても、実現していない事象であり、無理なのだろうと櫻井医師は言います。

進化論的に考えれば、睡眠をとらない、あるいは極端に短くて良いという特異的な能力は、四六時中危険や外敵から身を守ることができるので、非常に生存には適した能力ですが、これまでの生物の進化の過程において、この睡眠を削ることは実現していません。つまり進化という最適化の歴史においても取り除くことが出来なかった、それだけ睡眠は生命の存続に重要で不可欠なものだという結論でありました。そしてそこには、まだAIなど機械とは違う、私たちの脳の未だ解明されていない神秘があるのだと考えたいですね。

今日も一日頑張って行きましょう。

よろしくお願いします。

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