NO.191 5月21日【水】=日本の強みは経済複雑性②=

おはようございます。
昨日からの続きです。経済大国として日本が世界から注目された1990年代から、私たちは失われた30年を経験し、かつて世界第2位だったGDP(国内総生産)も中国に抜かれ、さらに2023年にはドイツにも後塵を拝し4位に落ちてしまいました。そして5位以下にはインドやヨーロッパ諸国がひしめいており、その差はわずかでトップ10をいつまで維持できるかという段階になっています。

しかし、そんな中で日本に希望がないわけではないということをぜひ共有したいと思います。それは皮肉にもトランプ関税によって見えてきた日本の経済の隠された強みであり、日本の経済複雑性が、これからの生き残りに大きな武器になり、力の源泉になると考えられています。日本はこの経済複雑性という指標において、1995年以降ずっと世界第1位を独走してきており、その結果として、2020年・2021年のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の報告では、日本の貿易品目として挙げられた1094品目の最終製品、キーテクノロジー製品において、世界における日本のシェアが圧倒的に高いことが証明されています。日本シェアが100%の製品が58品目、シェア90%以上は94品目、そしてシェア75%以上が162品目もあったのです。これは一般にはあまり知られていない驚くべき数字であると思います。

日本が世界市場のシェアを独占、あるいは寡占している製品群には2つのパターンがあるといいます。第1のパターンは、大企業が1社で複数の市場シェアを支配するケースです。例えばJSR(日本合成ゴム)はフォトレジストや偏光板フィルムでは、世界的なリーダーの位置を保っています。そして第2のパターンは、複数の日本企業で市場シェアを支配しているケースです。例えば医療用内視鏡は、オリンパス、ペンタックス、富士フィルムを合わせると、世界シェアの80%以上で、特殊内視鏡になるとほぼ100%になっています。

この世界シェアの点で、国際比較を見てみると、中国で世界の75%以上のシェアを支配している品目はわずかです。台湾も60%以上を支配している品目はありません。韓国も、有機ELディスプレイが98%を誇っていますが、それを除けば高いシェアを持つ品目は在りません。

日本企業が世界を支配している分野は多岐にわたります。具体的には、まず化学工業品です。先端化学の分野は、三菱化学、AGC、旭化成、信越化学工業、デンカ、DIC、東レなど、名だたる世界プレイヤーがひしめいています。また鉄鋼部門でも、日本は依然、世界をリードしています。日本製鉄とJFEスチールは特殊鋼の分野では世界の追随をまったく許していません。今回USスチールの買収問題が話題になっていますが、まさにそこに日本の底力が表れています。精密機械やロボット分野も、日本が世界の先頭を走っていますし、医薬品の分野も世界ランキング上位の企業がたくさんあります。

つまり、日本はその経済複雑性によって、日本にしか作れない製品や部品、素材を数多く持っており、これがたとえ関税といった障壁によって一時的にそのサプライチェーンを妨げられたとしても、結局は簡単には置き換えのできない高度に複雑化された製品が多いために、その需給関係を断ち切ることはできないということです。これは経済の安全保障にも大きく影響を及ぼす日本の独自のパワーであり、その力の源泉こそが日本の持つ高度で専門的な技術や人材、いわゆる職人技、職人気質なのだと思います。もちろんそこに胡座をかいていれば、いつか寝首を掻かれることになりますが、いまはまだまだその優位性をしっかり活用して、日本らしい経済的なプレゼンスを高めることができると確信します。

今日も一日頑張って行きましょう。
よろしくお願いします。

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